丹波市 「わく歯科」の院長BLOG

丹波市 歯科 わく歯科

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院長BLOG

自閉症と呼ばれたある少女の話

 歯医者という空間は、世間の皆さんからしたら 出来るだけ行きたくない場所であることは確かです。 だからこそ生まれる感動もそこにはあります。 特に子どもにとってはまるで初めての登山のようなもの。 お母さんやお父さんに嫌々手を引かれて登る山は、 途中泣きながらでも登りきった頂上から見下ろす風景が、 子どもを大人に変えます。 歯医者でも、最初泣きわめきながら、 チェアーで一人にされると、子どもなりに覚悟が決まり、 出来た自分に「自信」というご褒美が与えられます。 そして私たちには同時に大きな感動が。 そんな子どもたちの大人への階段を演出するのも、 歯医者の仕事の一つだと言えます。    その20才の少女は遠くから、お越しになられていました。 地元の歯科医院で、どこへ行ってもチェアーにさえ 座れないその少女のことを、お母様は 「自閉症」と問診表に記入されていました。 個室に案内された少女は、最初落ち着きなく部屋中を歩き回り、 チェアーに座ったかと思うと、5秒もしないうちに 「今日は帰る」と立ちあがるのです。 そんな彼女にカウンセラーの谷口が粘り強く接し、 インカムで私を呼ぶタイミングを計ります。 やっと私が呼ばれたその時、彼女はチェアーに腰を下ろし、 傍で座っているお母さんともども挨拶するだけでした。 しかしそこに娘が座って話を聴いていることにすら、 お母さんは驚かれていたのです。 次の受診日、私が呼ばれた時には、 すでに彼女の鼻には笑気マスクが装着され、 いく分穏やかに鎮静されていました。 そして前歯の虫歯を2本も治すことが出来たのです。  その治療中、彼女の両手は何故か宙を彷徨い、 慌ただしく指を動かして止まりません。 普段なら腰に手をやるよう促すのですが、 その時は治療に差し支えがなかったこともありましたが、 そうすることが彼女の自然な動きに思え、 何も言いませんでした。 3回目、4回目と受診する中で、 彼女が明らかに変わっていく様子が感じられました。 彼女の方から口を開け、私を待っていることが多くなったのです。 しかし相変わらず、彼女の両指は天井に向かって せわしなく動いていました。  全ての治療が終わったその日、私たちは彼女に言いました。 「Mちゃん、ついに全部終わったで。 折角やからみんなで記念写真撮らへん?」 わく歯科では初診の患者さんの口腔内の記録を全て残します。 どの患者さんも口腔内写真を13枚撮影するのですが、 Mちゃんは一枚も残っていません。 それで最後に一緒に撮ろうと提案したのですが、 内心断られることを覚悟していました。 ところが彼女は私たちの前で人生初めてというポーズをとって、 得意気に写真に収まってくれたのです。    治療が出来るたびに、こちらが恐縮するほど、 喜んで感謝して下さるお母様から手紙が届いたのは それから間もなくしてのこと。 そこには私たちが信じられない彼女の変化が記されていました。

(※写真、お手紙とも掲載許可済み)

  彼女の宙に舞う指が、そろばんを弾く動作だったのだと、 皆その時初めて知りました。 いやピアノの鍵盤だったのかもしれません。 いずれにしても、不思議とその行為が自然に感じられたのは、 当たり前のことだったのでしょう。  私たち歯医者の階段は、人にとっては急なもの。 しかしそれを登りきるお手伝いが出来たら、 患者さんにとっても、私たちにとっても、 人生を変えるほどの出来事になるかもしれないのです。  こんな感動を演出してくれたのは、 溢れる母性で彼女の存在を すべて包み込んでくれたスタッフのお蔭です。 自分たちの仕事にこんな可能性があることを、 そして人の人生の花はいつか必ず咲くということを 教えてくれたMちゃんとお母さんにも感謝しかありません。 Mちゃんがメインテナンスに来てくれて時、 彼女は朝からおにぎりを握って持ってきてくれました。 彼女が人生で初めて、人のために握ってくれたおにぎり。 手を合わせて戴きました。 その味はこれまで食べたどんなおにぎりより、 例えようもなく美味しかったです。 ただ自分の涙で少ししょっぱかったことを除いては